しがらみゼロのFPブロガーMisaki(@fpmisaki2)です。
もしも家族が認知症になったら・・・
親族であっても、定期預金を解約したり、ATMから預金が引き出せなくなったり、不動産の売却ができなくなるなど、身動きが取れなくなってしまいます。
その際に使える制度としては、成年後見制度というものがありますが、成年後見人になれば何でもできるかというと、そうではありません。
基本的には「本人の資産を守る」ための制度なので、自宅の売却や生前贈与等をすることはできないのです。
そこで、注目されているのが「家族信託」という資産の守り方です。
いまひとつイメージができないと思いますが、1,000万円を超える資産のある方や、不動産の所有者、不動産を共有している方などは、知っておくべき制度です。
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FP界でも注目されている「家族信託」
私ごとになりますが、2018年2月11日に、FP(ファイナンシャルプランナー)1級の実技試験というものを受けてきました。
この試験は、とある家族の事例(試験問題)を見ながら、面接形式で相談シミュレーションを行うというものです。
今期は全部で4回の試験が行われ、試験日ごとに異なる事例が提示されるのですが、実はそのうち2日で家族信託をテーマとした問題が出題されていて、私も家族信託の出題の日に当たりました 😀
まだまだ認知度は低いけれども、これから需要が拡大することは間違いないので、FP1級の取得を目指すのであれば、きちんと知っていて欲しい
そんなメッセージを感じましたし、自分が受けた試験ですので、やはりきちんと理解して発信していくべきだろうと、ちょっとした使命感も持ってみたりしました。
家族信託は歴史が浅く、専門家の方々でも正確な知識や実務経験を持ち合わせていない場合があります。
イメージとしては、先進医療行為のようなものだと思ってください。
医者ならだれでも高度な手術ができるわけではありませんよね。
ですが、経験を積み、多くの医者が執刀できるようになってくれば、先進医療だったものが、いつしか普通の医療行為に変わっていきます。
少し時間はかかるかもしれませんが、家族信託がそんな道のりを歩んでいくことを期待しています。
まずは、信託ってどんなこと?
文字通り、「信じて託すこと」なのですが、一般的には信託というと、「投資信託」とか「不動産信託」など、いわゆる信託銀行が取り扱っているものを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
これらは、信託業法の規制を受ける「商事信託」と呼ばれるのですが、2007年に信託法が改正されて、営利を目的としない「民事信託」という仕組みが簡単に作れるようになりました。
つまり、家族間で「託す人」と「託される人」を決めて、お互いの意思を確認しながら、財産の管理や処分などの目的が果たせるように契約をしておくことができるわけです。
これが、家族信託です。
信託契約は、何かの型にはめられたものではありません。
そのため、専門家と一緒に、自分や親族の想いを取り入れて、オーダーメイドで作っていくことができます。
信託には3者の登場人物が出てきます。
仮に、父親が長男に賃貸アパートの管理を依頼したいとしましょう。
- 委託者=自分の資産を託す人(父親)
- 受託者=相手の資産を託される人(長男)
- 受益者=家賃収入など、資産から得られる利益を受け取る人(父親)
こんな関係性になります。
形式的には、信託の対象とされた財産の所有権は、受託者に移されます。
そのため、受託者(長男)は、所有権移転の登記を行います。
長男は、アパートの修繕をしたり、建て替えをしたり、といった管理を行うことができるようになります。
一方、受益者は父親ですので、家賃収入を受け取るのは父親です。
贈与をしたわけではないので、贈与税もかかりません。
余談ですが・・・
信託銀行に管理を依頼するわけでもないので、毎年の管理手数料もかかりませんね。
これが、家族信託を行った場合の基本的な関係性です。
家族信託のメリット
では、家族信託のメリットとしては、どんなことが考えられるでしょうか。
基本的には、成年後見制度では制約を受けることもカバーできるのが特徴です。
まだ元気なうちから、資産を託すこともできる
成年後見制度の場合、認知症になってしまったなど判断能力が低下してからでないと実行されませんが、家族信託の場合には、自分が元気なうちから管理を託すこともできます。
もちろん、その後委託者の判断能力が低下してしまったとしても、受託者は引き続き財産の管理を行うことができます。
“委託者本人の意思確認をする“という手続きが不要になっているからです。
ちなみに、相続財産が賃貸不動産の場合、所有している父親が元気なうちに、長男が受託者となっておくことで、不動産管理のノウハウを父親から引き継ぐこともできるようになります。
お子様が不動産賃貸業を全くやったことがない状態で、突然相続により引き継いだとしたら・・・いったいどうしてよいのか分からなくなりますよね。
お互いに事前準備を進めておくことができるという利点もあるのです。
死亡時や死亡後のことも合わせて決めておくことができる
死亡時の資産の引き継ぎ先は、遺言によって指定するのが一般的ですが、家族信託に遺言の機能を持たせることができます。
また、通常の遺言では、死亡時の資産引継ぎ先(=1次相続先)しか決めることができませんが、家族信託の場合には2次相続以降の引継ぎ先まで決めることができます。
例えば、高齢の父親と、認知症の母親がいたとしましょう。
父親からの1次相続先は母親としたいのですが、母親にはその次の引継ぎ先を決めることができませんね。
家族信託では、母親の次の引継ぎ先(2次相続先)を長男にするといった形で、自分が亡くなった後に発生する相続の引き継ぎ先を指定することができるのです。
もちろん、2次相続だけでなく、3次相続以降も決められます。
管理委託、任意後見、遺言をパッケージ化することが可能
今までのメリットのまとめとなりますが、通常は別々に契約しなければならない、認知症や相続にまつわる制度を網羅して、1つにまとめることが可能です。
信託対象の幅がひろい
いわゆる商事信託では、資産性のある金融資産などしか信託できないことが多いです。
しかし、家族信託の場合は、「飼っているペット」なども信託財産とすることができます。
かわいいペットの未来を保証してあげることもできるのです 😉
成年後見人や成年後見監督人への報酬が発生しなくなる
成年後見制度を使った場合には、後見監督人などに対する月々の報酬が発生し、それが亡くなるまで続いていくわけですが、家族信託の場合には、家族間で信託契約をしているので、無報酬で行うことができます。
倒産をした場合の差し押さえを回避することができる
信託をした場合、将来、委託者や受託者が、信託財産に関係ないことで多額の債務を負ってしまったとしても、信託財産は差し押さえられません。
これを「倒産隔離機能」と呼んでいます。
贈与や投資など、財産を積極的に増やすことも可能になる
もし成年後見制度を使った場合には、生前贈与をすることはできなくなります。
つまり、相続税対策を取ることは、全くできなくなってしまいます。
一方、家族信託の場合、積極的に財産を活用できる契約を結ぶことが可能です。
共有不動産の塩漬けを予防できる
将来の相続が発生したときに、不動産が資産の多くを占めていると、分割できずに子供たちが共有する可能性が出てきます。
または、すでに共有になってしまっている資産があるかもしれません。
不動産の共有は非常にやっかいで、できれば避けて通りたいところです。
共有者全員の同意がないと、不動産の売却ができないので、共有者の仲が良く、売りたいタイミングが一致すればいいのですが、そう簡単にはいきませんよね。
共有財産だった不動産が、次の世代に相続されて、さらに共有者が増えるという悲劇も生みかねません。
また、共有者の1人が認知症になったら、他の共有者だけで売却するというわけにはいきません。
身動きが取れない状態におちいってしまうのです。
家族信託で管理者を明確にし、受益権は共有にしておくことで、いざという時に管理や処分ができなくなるリスクを回避することができます。
受け取り方法の多様化が可能
遺産の相続が発生した場合には、一括受け取りになります。
- 孫に資産を残したいけど、大金を持たせるのはどうだろう?
- 息子に資産は残したいけど、浪費癖があるから心配
こんな悩みがある場合、遺産の中から毎月定額を給付する、成人したときに給付する、などの条件をつけることが可能です。
おわりに
このように、家族信託にはとても多くのメリットがあります。
ある程度まとまった資産がある方、賃貸用の不動産を所有している方、家族に認知症や障害をもった方がいる場合などは、特に活用を検討しておくといいことがお分かりいただけたかと思います。
もちろん、家族信託は万能なわけではありません。
デメリットや注意すべき点もありますので、こちらの関連記事もあわせてご覧ください。
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