しがらみゼロのFPブロガーMisaki(@fpmisaki2)です。
早速ですが、相続税法の改正シリーズ、第2弾をお届けします!
こちらの記事でもご紹介しましたが、
平成30年7月6日に相続法の改正が成立し、7月13日に公布されています。
改正内容は多岐に渡っているのですが、今回は配偶者居住権というものに着目してみたいと思います。
そんな言葉聞いたことがないんだけど。
残された配偶者が生活に困らないように、権利を保護するのが目的なんだけどね・・・
この制度には、大きく2つのポイントがあります。
- 残された配偶者が、相続によって住む場所を失わずにすむように、「住み続ける権利」と「所有する権利」を分けて考える。
- 「住み続けられる権利」の考え方を、短期と長期で区別しつつ、死ぬまで住み続けられるようにする。
人生100年時代なんていう言葉が使われるようになるくらい、長生きをするのが当たり前になりつつあります。
そのため、必然的に、相続が発生するタイミングが遅くなり、残される配偶者も高齢というケースが増えてきています。
もしも、高齢になってから住む場所を失ってしまったら・・・
生活そのものが成り立たなくなってしまいます。
そんなのかわいそうだし、何とかしなきゃ!
こんな社会的背景を受けて、高齢になった配偶者が安心して老後を過ごせるように、生活を保障しましょう! という目的で取り入れられた制度なのです。
趣旨はすばらしいのですが、なかなか一筋縄ではいかないのが正直なところです。
配偶者居住権は、法律が公布された日(=2018年7月13日)から2年以内のどこかで施行日が定められることとなっていて、いつから適用されるかは、現時点では未定です。
他の法律は、原則1年以内ですので、周知期間が長く設けられているという見方をすることができます。
裏を返せば、今のうちから理解して、対応策を考えておいてね! という意味だとも言えるでしょう。
後になって慌てることがないように、いったいどんな制度になるのか、どんな問題点があるのか、一緒に学んでいきましょう。
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配偶者短期居住権は、引っ越しまでの準備期間を作るもの
相続法の改正で新設される「配偶者居住権」は、短期と長期の2種類に分かれています。
配偶者短期居住権では、少なくとも相続開始から6か月は自宅に住み続けることができますので、引っ越しをすることになった場合でも、準備期間を確保できるようにすることが目的です。
配偶者短期居住権って、どんなもの?
配偶者短期居住権と言うのは、被相続人の遺産である自宅を、配偶者が相続することができなかった場合でも、一定の期間は配偶者が自宅に住み続けることができるという権利です。
例えば、遺産分割協議や調停が長引いてしまう場合や、遺言で配偶者以外の方に自宅が遺贈されてしまった場合が当てはまります。
そんな場合に、すぐに配偶者に出ていくように求めるのは、あまりにも酷ですよね。
そこで、
- 相続開始の時から6か月を経過する日
- 遺産分割により居住建物の帰属が確定した日
のいずれか遅い日までは、無償で住み続けることができるという権利なのです。
配偶者短期居住権が持つ効力とは?
配偶者短期居住権が持っている効力は、そこで生活をするためのものに限定されています。
- 配偶者は、権利が存続する期間中、居住建物を使用できる。
- 配偶者は、収益(貸して家賃をもらうなど)はできない。
- 配偶者は、居住建物にかかる通常の必要費を負担する。
- 配偶者短期居住権は、譲渡することができない。
- 店舗併設等の場合、配偶者短期居住権では、居住部分のみが使用できる範囲となる。
一番のポイントは、収益ができないという点です。
この後に出てくる配偶者長期居住権とは異なるポイントです。
配偶者短期居住権に関しては、今までも判例によって認められていた内容を、少し修正して明文化したものですので、あまり目新しさは感じないかもしれません。
それでも、関係性が悪化している家族間の相続の場合、短期的な居住も認めないとか、その分の家賃を支払えといったトラブルが発生することもあったようですので、法律で明確になったということはプラスに働くことでしょう。
配偶者長期居住権は、死ぬまで住み続けることも可能な権利
もう1つの配偶者長期居住権は、配偶者が亡くなるまで無償で住み続けられるという、なかなか大きな権利です。
余談ですが、一般的に、配偶者居住権という言葉が使われる場合、長期居住権を指していることが多いです。
この記事では、混乱しないように配偶者長期居住権という用語で統一しますが、一般的な資料を読むときには、
短期と長期を包括した話がされているのか?
長期居住権のことを指して話が進んでいるのか?
と言う点について、文脈から判断しながら読み進めてくださいね。
さて、本題に戻ります。
配偶者長期居住権については、具体例を見ながら考えた方が分かりやすいので、1つサンプルをあげてみます。
- 父A(75歳)・母B(75歳)・子C(49歳)・子D(47歳)の4人家族。
- 父が亡くなったことにより、相続が発生した。
- 子C・子Dは、それぞれ独立して家庭を持ち、自宅も保有しているが、教育費や住宅ローンの返済を抱えていて、金融資産の余裕はない。
- 父Aの資産は、自宅の土地・建物(木造)4,200万円、金融資産1,800万円。
- 母Bは、これからも最期の時まで自宅に住み続けたい。
相続財産に、自宅不動産が占める割合が高いという、よくありがちなパターンです。
さて、このケースで法定相続分どおりに相続をする場合、
母B 1/2(3,000万円)
子C 1/4(1.500万円)
子D 1/4(1.500万円)
に遺産を分割することとなります。
つまり、自宅を売却しないと、相続財産を分けられません。
母Bは、泣く泣く自宅を売って、遺産の分割を行うしかありません。
仮に、自宅は母Bが相続し、金融資産は子C・Dが折半するということになったとしても、母Bは金融資産が全く相続できませんので、今後の生活費が不足してしまいます。
どちらのパターンになったとしても、75歳の母Bにとっては、非常に苦しい状況が待ち受けています。
そこで、配偶者長期居住権が活躍します!
改正相続法では、4,200万円の自宅を、一定の計算式により、負担付所有権と配偶者長期居住権に分けることができるんです!
【計算方法】
本来の評価額-負担付所有権=配偶者長期居住権
配偶者長期居住権がついている不動産の所有権は、完全な所有権ではなく、負担付所有権と呼ばれる権利となります。
なぜなら、配偶者長期居住権がある以上、住み続けるのは配偶者だから。
所有者は、自分の資産であるにも関わらず、使い勝手に制限を受けることになりますよね!
その分、土地建物の評価は下がるというわけです。
配偶者長期居住権の評価方法については、個々のケースにより異なり、非常に複雑です。
イメージをつかみたい方は、法務省のサイトに掲載されている資料をのぞいてみてください。
だいたいの雰囲気だけつかんでもらったら、
ここでは、負担付所有権2,700万円、配偶者長期居住権1,500万円になるものとして話を進めます。
※配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)(法務省)を参考にしました。
遺産総額6,000万円の内訳を再確認しておくと、
負担付所有権2,700万円、配偶者長期居住権1,500万円、金融資産1,800万円。
これを法定相続分で分割した場合、
母B 1/2(3,000万円) 配偶者居住権1,500万円、金融資産1,500万円
子C 1/4(1.500万円) 負担付所有権1,350万円、金融資産 150万円
子D 1/4(1.500万円) 負担付所有権1,350万円、金融資産 150万円
というふうに分割することが可能になります。
母Bは家に住み続けることができ、当面の生活費も確保することができましたとさ。
めでたしめでたし 😀
・・・で終わらない気がした方は、鋭いです!
配偶者長期居住権が付いた所有権には、どこまで価値があるのか?
配偶者長期居住権を活用した場合、母Bの生活は安定します。
一方、子C・子Dが相続できる金融資産は150万円だけになってしまいました💦
ですが、子の相続税は、相続財産1,500万円に対してかかってきます。
配偶者長期居住権が付いた不動産=買っても自由に使えない不動産ですから、まず第三者が購入するとは思えません。
子の立場に立つと、配偶者長期居住権がついている間は、売ることも貸すこともできない、実質的には無価値な財産になると言えるでしょう。
それなのに、相続税はしっかり負担しなければいけない。
手元に残る金融資産は、さらに減るワケです。
今、金融資産が欲しいと思っている、子Cと子Dとしては、非常におもしろくない状況です 👿
配偶者長期居住権を設定するためには、
- 遺産分割時に定める
- 遺贈の目的とされた場合
- 裁判所による審判(遺産分割請求)
ことが必要となります。
父Aが、子C・子Dには何も言わずに、「母Bに配偶者居住権を遺贈する」という遺言書を書いていたとしたら・・・母と子の間で、望まない ”争族” に発展する可能性もあります。
トラブルを回避するために設定した権利のはずが、かえって “争族” の火種になってしまったら、亡くなった父Aは、全く浮かばれませんよね。
配偶者長期居住権を設定する場合には、事前に相続人どうしのコミュニケーションが大事だということが分かってきました。
もし、みんなが納得のうえで、遺言書で遺贈をする場合の、注意点もあげておきます。
1.法律が施行されてから、遺言書を作成すること。
配偶者長期居住権は、まだ施行されていない法律上の権利です。
そのため、現時点で作成する遺言書に、配偶者長期居住権を譲渡すると書いたとしても、効力はありません。
必ず、法律施行後に遺言書を作成してください。
2.配偶者が権利放棄をしたときの条項を入れておくとよい
遺言に書かれていた場合でも、配偶者長期居住権を放棄することは可能です。
もし、どうするか迷っている場合には、配偶者長期居住権を譲渡することは書いておき、放棄ができるようにしておくことも1つです。
その際、配偶者が配偶者長期居住権を放棄した場合には、金融資産の配分を変更するなどの予備的な条項を入れておくと、配偶者の生活が成り立つように配慮することもできるでしょう。
配偶者長期居住権は、意外と強い権利。登記もできます!
実際に、配偶者長期居住権を取得した場合には、一体どんなことができるのでしょうか。
- 権利が存続している期間中、居住建物を使用収益できる。
- 居住建物の所有者に対し。「配偶者居住権」の登記設定を請求できる。
- 登記があれば、第三者に配偶者居住権を対抗できる。
- 居住建物にかかる通常の必要費を負担する義務を負う。
- 配偶者長期居住権は、譲渡することができない。
使用だけではなく、収益(貸して家賃をもらうなど)もできます。
さらに、登記をして第三者に対抗することもできるので、仮に建物が第三者の手に渡っても、配偶者居住権があることを主張して、そのまま住み続けることができるのです。
とにかく、配偶者の住む場所が手厚く保護されていることが分かります。
なんでここまでするんだろう?
家族の形は、多様化してきています。
例えば、被相続人が再婚していて、再婚後の配偶者と前妻の子が法定相続人になる場合はどうなるでしょうか?
もちろん、上手に関係を保っている方もいるかもしれませんが、基本的には他人同士ですから、うまくいかないことの方が多いですよね。
配偶者長期居住権は、相続人が不仲な場合に対応するための苦肉の策・・・ということもできそうです。
配偶者長期居住権を上手に活用する方法は?
基本的には、家族が不仲な場合の苦肉の策・・・とは言え、新たな制度が生まれたわけですから、仲良し家族がうまく活用する方法はないかも考えてみましょう。
配偶者の認知症対策としての可能性
仮に父が先に亡くなり、母が認知症を発症したとしましょう。
認知症になると、その後の法律行為には制限がかかってしまいます。
配偶者長期居住権を母が、負担付所有権を子が相続しておけば、不動産の管理を子に任せることが可能になりますので、大規模修繕や売却などの意思決定がしやすくなる可能性があります。
節税対策としての可能性
父の死亡時に、母が配偶者長期居住権、子が負担付所有権を相続したとします。
その後、妻が亡くなり二次相続が発生したら、配偶者長期居住権は消滅します。
これにより、子は完全な所有権を取得するのですが、そのことによって得られる利益に対して相続税を課税する手段は、今のところありません。
結果として、相続財産の圧縮につながるという、抜け穴的な使い道ができると考えられています。
ただ、これに関しては、何らかの規制や新たなルールが設定されることと思います。
税制改正の動向は、しっかり把握しておくべきでしょうし、こういう抜け穴のような節税対策をしても、報われない可能性が高いです。
可能性としてあげてはみたものの、いずれの方法も、策に溺れるパターンに気を付けるべき内容です。
制度を有効活用しようという視点ではなく、相続人がなるべく困らないようにするにはどうすべきか? という視点で、相続対策を考えていくのが一番です。
まとめー制度改正の情報を入手しつつ、早いうちからコミュニケーションを取っておこう
2つの配偶者居住権が新設されることにより、回避できる問題はもちろんあります。
ですが、家族像が複雑化し、相続税の基礎控除が下がって納税対象者も増えつつある昨今では、何か制度ができたからと言って、全てのトラブルが完全になくなるということは期待できないでしょう。
相続が発生する順番だって、どうなるかは分かりません。
ものすごく考えて対策したつもりでも、順番が変わってしまえばシナリオが崩れることだってたくさんあります。
相続を取り巻く環境が複雑になってきていること、何よりも相続人同士のコミュニケーションが大事だということを忘れずに、必要に応じて専門家の力を借りながら、円満な相続が迎えられるよう、備えておきたいものですね。
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